凍 沢木耕太郎

凍 (新潮文庫)

凍 (新潮文庫)

世界最強クライマーの一人といわれる山野井泰史と妙子の2人のヒマラヤ、ギャチュンカンへの登攀の記録。
これはホントにノンフィクションなのか。
ある意味、映画「バーティカル・リミット」の世界。
名誉欲に溺れる悪者もいないし火薬で発破したりとかそんなハチャメチャこそないけど、、、
事実は小説より奇なり。。。
普通の人から見たらムチャクチャな世界です。
ベースまで何日も何日もかけてたどり着き、そこから何日も何日もかけて氷の壁を登る。
10センチの岩の壁の棚に腰をかけてのビバーク、雪崩に巻き込まれ、視力を失い、岩の割れ目の支点になる場所を探すために、素手で岩肌をたどる、、、それは手の指を1本つづ順番に凍傷で失うことを意味する、、。
よくぞ、生きて帰って来たな、と。
こんな過酷な、生死の間をさまようような冒険だというのに、二人はとても冷静で、のんびりとした印象さえ、読者に与える。
そういう二人の性格や、山に対する思いや取り組み方も、この作品の中で、今回チャレンジしたこの壁にからめてうまく語られているので、そういう印象を持つのも納得なのか、筆者の観察や表現がこの2人をありのまま語っているからなのだろうか。
この2人の人となりは山やさんでなくても、なんとなく知っているというか映像などでみたことがある人は多いのではないでしょうか。
奥多摩の小さな家でつつましく暮らす二人。
ほとんど自給自足のような生活。
山岳道具のメーカーからのアドバイザー料とか、アルバイトでこつこつ貯めた資金で、山に登る。
スポンサーはつけない、それは登りたい山を制限させるし、登頂させるというプレッシャー、進むか戻るかの冷静な判断を迷わせるから。
二人は凍傷でほとんどの指を失っているから、普通の生活さえ困難なのに(妙子など、「障害者」手帳さえ持っている、、)
いろいろ工夫して包丁を使って料理したり、指の付け根の節を使ってクライミングさえしてしまう、、、。
ほとんど遭難したか、と思われてもおかしくないような過酷な山行から戻ってきて、凍傷の手術や治療を繰り返し、少しずつ歩けるようになり、すこしずつ次の山への意欲を取り戻し、、、。
こんなすごい人もいるんだなー、、、と。純粋に冒険家なんだな、冒険とはこういうことなんだな、と思わせられた。