黄色い目の魚 佐藤 多佳子

黄色い目の魚 (新潮文庫)

黄色い目の魚 (新潮文庫)

この小説、ホントに面白いです。
今まで「いちばん好きな小説は何?」と聞かれたら、江國香織の「ホリーガーデン」かなーと思っていたけど、、(現代の小説の中でね、、)この本はトップに躍り出るかな、というくらい、自分の中でポイントアップ。なんだか、「大切にしたいな」と思える本です。
冒頭の二つの話、最初は、少年悟が、家を出て行った父親、テッセイに会う話、二つ目は、中学生のみのり、が、叔父の画家で、漫画家の通の作品を通じて友情に気づく話。これだけで十分成り立っていて面白い短編のそれぞれの主人公やとりまく登場人物が、このあとの話で、こう展開していくとは!!最初の2つの話で、二人のバックグラウンドがばっちり語られているという訳。
高校生の悟、サッカー部でゴールキーパをしていて(サブ)友達もまあまあいる。絵が得意で、授業中に先生やクラスメイトの特徴をとらえて落書きをする、家を出て行った父の血か、スケッチやデッサンを始めると没頭してしまうが、そんな自分の気持ちがよく分からなくて、結構「コソコソ」スケッチブックに向かっている。
高校生のみのり、家族とうまくいかず、無愛想で、ちょっとキレキャラ?絵描きで、漫画家の叔父の通のアトリエにいりびたる。そこだけが居心地がよく自分の居場所を感じる。絵をみたり、絵を描くのを見るのが好き。
ただのクラスメイトだった二人が、絵を通じて、ほかの人ととは違う何かをお互いに感じ、二人をとりまく大人たちを通じて成長し、自分の本当の気持ちや、好きなことやりたいことに気づき、将来を考える。
自分の気持ちを口にするのが難しいのは、ほんとの自分の気持ちが分らないからなのかな。自分と向き合い、問いかけるのって難しい。。。
「マジになるのが怖かった」自分の限界を知ってしまうようで、、という悟、突っ張って、家族にも心を開けなかったみのり、、、この2人が、ホントに、変わります。

おまけ。
『・・・俺は最後のチョコレートを食べてしまった遭難した登山者のような気持になった。もう何もない、手持ちのものはない、与えてもらわなければ飢えて死ぬだけだ、、、』
、、最後の方の悟の気持ち。

・・・ああ、絵が描けたらなあ、、、、。(「もしもピアノが弾けたなら」風に、、。)