照柿(上・下巻)

照柿(上) (講談社文庫)

照柿(上) (講談社文庫)

照柿(下) (講談社文庫)

照柿(下) (講談社文庫)

マークスの山」と同じ、合田雄一郎刑事が主人公の警察小説。マークスの山の凍りつくような、吹雪や風の強さとは正反対の、暑くて、重苦しい、酷暑の物語。「照柿」とは色の名前、強い西日を受ける、えんじ色の、熟した柿の色。
立っているだけで体から汗が吹き出てくるような、夏の午後の日差しの色、もう1人の登場人物、野田達夫の勤務する工場の溶鉱炉の炎の色、金属が焼ける色。
そういう猛烈な「熱」に狂わされた、野田と、合田。二人とも、心の奥底に潜む別の自分を隠したまま、”むきになって”自分の仕事をまっとうする、しかし、紙一重でもう1人の自分が本能のままに顔を覗かせる。
合田は「マークスの山」もうすこしクールではなかったか。
絡み合う、いくつかの事件、何人かの人物。ものすごいリアルで凄みがある。野田の工場の、綱渡り的な生産ラインの管理、現場を管理する野田がわめいても、上は動かない。大きな事故や、不良品の生産がいつ起きてもおかしくない状況で、野田もぎりぎりの精神状態でいる。
そして、やっぱり最後に待っているのは、「破滅」。マークスの山と一緒じゃん、なんだかスッキリしない終わり方だ。でも重苦しくて、早く終わらないかと重いながら読んでいたので、、、。
文章が濃厚で、作者が女性とはいまだに信じがたいです。
巻末の解説でドストエフスキーの作品をあげて、対比していたのが興味深かったです。
やっぱり罪と罰はもう一度読まなきゃなぁ。あと「白痴」も読みたい。うちの母は「カラマーゾフの兄弟を読んでたぞ。