「龍時」(シリーズ3巻)

龍時 01-02 文春文庫

龍時 01-02 文春文庫

主人公である高校生、志野リュウジは、サッカー選手。憧れの選手はポルトガル代表、フィーゴ
日本でのサッカー人生に限界を感じ、単身スペインに渡る。
何しろ、暗い、重苦しい雰囲気。
サッカーが上手くても、監督やチームの考え方にフィットしなければ、自分を生かせないし、短い選手生命を無駄にもてあましてしまう。
まだ高校生だっていうのに、リュウジは、選手生命=人生みたいに思いつめている。
おとずれたスペイン行きのチャンスにくらいつく。
最初に所属した下部のクラブでの、周りの選手との競争、友情。日本のリーグなんて甘い甘い、ここでは皆とても陽気で明るいけど、生活かかってるし、真剣。ハングリー。
リュウジも、だめだったら日本に帰ればいい、という考えを自分から封印しないと、周りの選手と対等に競っていけないと、自分をとことん追い詰める。

本格サッカー小説、ってことで、もっと爽やかなスポ根をイメージしてたから、ちょっとどんよりした気分になってしまった。(あ、でも巨人の星も、明日のジョーも、暗いか。)

龍時 02-03 (文春文庫)

龍時 02-03 (文春文庫)

2巻目になるとリュウジも大人になり余裕がでてきて、読むこちらもあまり重苦しさを感じないで読み進むことができそうだ。
スペインでのプロ1年目を終え、チャンスをものにしたリュウジはベティスに移籍。
実在するリーグや、チーム、選手に囲まれて話は進んでいくので、本当にサッカー界にリュウジが存在しているような気がしてくる。
それにしても、試合の描写が、すごい。サッカーやってる人だったら、自分をリュウジと同じピッチにおいて、のめりこんで一気に読むんじゃないかな。
私みたいに、サッカーやってないけど、最近かなりはまってて、ビデオとかでかなり試合を観ている、という読者には、ピッチの外からの映像があって、解説者がいて、というところで試合にのめりこんでいるような臨場感。
サッカー好きじゃない人は、面白くないだろうなーー。
ちなみにリュウジのチーム、ベティスのユニホームはカッパ社製のピタT。(日本だとヴィッセル神戸のやつ、あとは、松井大輔が着てるルマンのやつ、クローゼのブレーメンとか、、って、分かるくらいの方にこの小説はオススメかも。

龍時 03-04 (文春文庫)

龍時 03-04 (文春文庫)

3巻目。スペインでの活躍が認められてアテネオリンピック代表に召集されるリュウジ。
ここで、平山や田中達也、大久保、闘莉王、啓太といった選手と一緒に勝ち上がっていく。(審判のコリーナさんまで登場する!)ここでは、代表監督との葛藤を中心に描かれる。自分はトップ下でパスを出してこそフォワードが生き、ゲームが動く、そういう選手のはずなのに、監督は違う使い方をする。監督の意図は?スペインリーグでもまれてきたリュウジは、監督にも手の内をすべてさらけ出さず、腹の探り合いになる。
「チームが強さを発揮するのは監督のために勝ちたいと思うときだ」うー、ぐっとくる。いまのJリーグだと、川崎フロンターレの関塚監督と、大分のシャムスカってとこかなぁーー、、なんてね。
まだまだ続きが読みたかったのに、3巻がこの作家の遺作になってしまった。
まだまだ、アテネの次にドイツもあったし、フリーのスポーツライターであるリュウジの父がこの後もっと出てきそうだったし、最後の解説の所でも続編に対する作者の意欲も感じられたのに、本当に残念です。