劔岳<点の記> 新田 次郎

 
明治時代末期、「針の山」と恐れられ、立山信仰から「登ってはいけない山」と言われていた、前人未踏の劔岳
その山の山頂に三角点を埋没し、中部山岳地帯の地図の白紙部分を埋めるという任務を全うした測量官、柴崎芳太郎の史実に基づいた物語。
物語は静かに淡々と進みます。もっと劇的なエンディングかと思いましたが、いがいにもあっさり、、。
柴崎の任務とほぼ同時に日本でも山岳会が発足され、信仰のための登山から一線を画した山登りがヨーロッパから日本にも本格的に入って。
軍からは山岳会より先に「剱岳の初登頂」という暗黙の命があるわけですが、しかし劔だけでなく、周りも測量してたくさんの作業をすすめなければいけないわけだから。
でも遭難したらそれが一番の測量科の恥、と慎重に調査し計画し、作業を進めていきます。
限られた予算で、限られた日数、天気や季節など自然との闘い、現地の集落の人々や宗派の壁、信頼できるガイドや助手、人夫の手配、、、。
実直で誠実、部下思いの柴崎、命をかけてサポートする宇治長次郎、この二人の信頼関係が物語の軸になっています。
登頂に成功したが、山頂には大昔にすでに山頂を踏んだ人物がいる跡が。これにより軍は少なからず落胆し、柴崎に対する評価も控え目なものになるが、
この価値の大きさを知っているライバルの山岳会からはあたたかい労いの言葉が与えられるのです。

作品の最後に、作者の取材と制作後記が書かれているのだが、これがとても面白く、、、。柴崎が進んだ道をたどる劔岳と、その周辺の取材旅行。
土砂災害と、室堂周辺の繁栄により廃墟となった立山温泉跡地、柴崎が云ったザラ峠からの道はもう廃道になっていて、有峰口からの大回り、それに砂防管理事務所のジープに助けられての取材、私は劔には上ったことはないが、周辺の立山には行ったことがあるし、周辺の地名は聞いたことがあるところが多く、エアリアマップを手にしながら、本編も後記も読みました。
現在はいくつかのアプローチがあり、人気がある剱岳、でも深くて大きく、神々しい姿で、登る者の背筋をびしっと立てさせる雰囲気があります。
夏に劔沢でキャンプをして、そこから登ろうと計画をしています、、晴れますように。

追記:またこの作品は来年の映画化に向けて撮影中とのこと、主人公の柴崎に浅野忠信、案内人の長次郎に香川照之、特撮はCG、ヘリなども使わず、実際山の中で自然と闘いながらの撮影とのことです。
小説の筋をそのまま追っていくようなストーリー、撮影になるのでしょうか、かなり楽しみです。